祖母の願い
ハケに込めて
小さい頃に両親が離婚。昼夜問わず働く母の帰りを、一人ぼっちで待つのが日常でした。
そんなある日、小さい頃に新しく父になる人が現れ、「孤独じゃなくなる」と胸を躍らせたのも束の間。待っていたのは、暴力の日々でした。あざだらけの体を鏡で見ては「どうして俺だけ…。」と、声を殺して涙を流しました。
唯一の救いは、おばあちゃんでした。優しく包み込んでくれる祖母の口癖は、「宮大工だったじいちゃんのように、手に職つけて家族を守れる男になりなさい。」
その安らぎも長くは続きませんでした。祖母の家が火事に遭い、天国へ旅立ちました。たくさん泣きました。「神様はいないのか。」人生を投げ出したくなりました。
転機が訪れたのは中学生の頃。近所の塗装職人との出会いです。孤独な私を気にかけ、本気で叱ってくれる背中を追って塗装道の門を叩きました。
無我夢中でハケを動かす私に、ぽつりと「いい筋してるな」と言ってくれました。初めて自分の存在を認められた瞬間でした。
以来、技術を磨く毎日。
そしてある日、年配のご夫婦のお宅を塗り終えた時、涙を浮かべて「まるで新築みたい。」と言ってもらえました。
過去の全てが報われた気がして、一人で男泣きしました。
その後に結婚、3人の子供に恵まれ独立し一級技能士も取得しました。
祖母が私の癒しとなり、お客様が生きがいを教えてくれました。
だからこそ、恩返しに足る手仕事を届け続けたい。そう思わずにはいられないのです。